UAEの小規模事業者向け法人税軽減措置「Small Business Relief(SBR)」は、2029年12月31日までに終了する課税期間まで延長されました。UAE財務省は2026年8月7日、Ministerial Decision No.131 of 2026による延長を発表しています。
売上高の基準は300万AED以下です。ただし、基準以下であれば自動的に適用される制度ではありません。過去の課税期間の売上高、税務上の居住性、除外対象への該当性を確認し、課税期間ごとに申告で適用を選択する必要があります。
本記事では、日本人経営者やUAEで法人設立を検討する方に向けて、延長の内容と利用前に確認したい条件を整理します。情報確認日:2026年10月20日。
1. 2026年の決定で何が変わったのか
Ministerial Decision No.131 of 2026は、SBRを定めるMinisterial Decision No.73 of 2023の適用期間を改正するものです。従来の終了期限は2026年12月31日でしたが、今回の改正で3年間延長されました。
| 項目 | 従来 | 改正後 |
|---|---|---|
| 対象となる課税期間の終了日 | 2026年12月31日以前 | 2029年12月31日以前 |
| 売上高基準 | 300万AED以下 | 300万AED以下 |
| 適用方法 | 課税期間ごとに選択 | 課税期間ごとに選択 |
期限は会社の設立日や申告日ではなく、課税期間の終了日で判断します。例えば、2029年12月31日に終了する課税期間は期間要件に入ります。一方、2030年3月31日に終了する課税期間は、2029年中の事業活動を含んでいても、今回の延長による対象期間には入りません。いずれも他の要件を満たすことが前提です。
2. Small Business Reliefとは
SBRは、条件を満たす事業者が適用を選択した課税期間について、課税所得が生じていないものとして扱う制度です。法人税そのものの対象から外れる制度ではなく、登録や申告などの義務は残ります。
通常の法人税計算とSBRでは、着目する金額が異なります。一般的な法人税率では「課税所得」が基準となりますが、SBRでは「売上高(Revenue)」を確認します。売上高から経費を引いた利益や、銀行口座の残高で300万AEDの基準を判断しないようにしましょう。
例として、売上高250万AED、経費180万AED、会計上の利益70万AEDの会社を考えます。売上高の条件を満たすだけでなく、過去の課税期間やその他の要件も満たしてSBRを選択すれば、その期間は課税所得がないものとして扱われます。利益があるという理由だけでSBRの対象外になるわけではありません。これは制度説明のための仮定例であり、実際の税額は個別に確認が必要です。
3. 売上300万AED以下の法人が確認すべき条件
当期だけでなく、過去の課税期間も確認する
FTAの案内では、対象の課税期間と過去のすべての課税期間について、各期間の売上高が300万AED以下であることが条件です。過去の課税期間で一度でも基準を超えていれば、その後に売上高が下がっても、現行要件ではSBRを利用できません。
設立以来の売上資料を整理し、法人税制度の対象となる課税期間ごとに確認してください。決算期間が通常と異なる場合や、会計処理に判断を要する収益がある場合は、適用される会計基準も含めて専門家に確認しましょう。
UAE法人税上の居住者に該当するか
SBRの対象は、UAE法人税上の「居住者」に該当する会社や個人事業主などです。ここでいう「居住者」は税法上の区分で、個人だけでなく会社も含みます。個人で事業を行う人も、法人税の対象となり、SBRの条件を満たす場合には利用できます。会社の登記場所や経営者の居住ビザだけで判断せず、法人税上の区分と適用条件を確認しましょう。
適格フリーゾーン法人などは対象外
Qualifying Free Zone Person(適格フリーゾーン法人)と、所定の多国籍企業グループの構成会社は対象外です。FTAは、後者について連結売上高が31億5,000万AEDを超える多国籍企業グループのメンバーを挙げています。
「フリーゾーンで設立した会社」と「適格フリーゾーン法人」は同じ意味ではありません。フリーゾーン法人は、適格性や選択による影響も含めて確認してください。
出典:FTAのSmall Business Relief案内。
4. 適用しても登録・申告・記録保存は必要
SBRの利用には、法人税登録を行ったうえで、対象期間の法人税申告を通じて適用を選択する必要があります。選択は課税期間ごとに行います。「税額がゼロだから申告不要」と判断しないでください。
売上台帳、請求書、銀行明細、契約・受注資料など、申告と売上基準を裏付ける記録を整理しましょう。FTAガイドでは、関連する課税期間の終了後7年間の記録保存が必要とされています。
5. 適用を選ぶ前に注意したいこと
- 欠損金などへの影響:SBRを選択した期間の税務上の欠損金や純支払利息には、将来への繰越しに制約があります。赤字の会社も、適用の有利不利を確認してください。
- 関連者間取引:移転価格文書の負担軽減があっても、独立企業間価格の原則への対応は必要です。
- 人為的な事業分割:300万AED以下に抑えるために事業を人為的に分割した場合、租税回避防止規定の対象となる可能性があります。
- 他の税制との区別:SBRは法人税の制度です。VATなどの義務は別に確認する必要があります。
登録、記録保存、欠損金・利息、関連者間取引、事業分割の取り扱いは、FTA「Small Business Relief Guide(CTGSBR1)」をご参照ください。2023年版ガイドの期間に関する記載は、2026年の改正決定と合わせて読む必要があります。
6. 自社で準備するチェックリスト
- 法人税の登録状況と、申告対象の課税期間を確認する
- 課税期間の終了日が2029年12月31日以前か確認する
- 当期と過去の課税期間ごとに売上高を整理する
- UAE法人税上の居住者に該当するか、除外対象ではないかを確認する
- 欠損金や純支払利息の繰越しなどへの影響を確認する
- 申告での選択と、裏付け資料の保存を進める
UAE法人の設立と運営は、税務対応まで含めて計画を
今回の延長によって、条件を満たす小規模事業者がSBRを利用できる期間は長くなりました。ただし、売上高だけで適用は決まりません。設立時から会計、申告、証憑の管理まで準備しておくことが大切です。
JCMEの2023年の法人税導入と小規模事業者向け救済措置の解説は制度導入時の背景を扱っています。本記事は2026年の延長決定を踏まえた確認事項を整理したものです。移住も検討している方は、日本人経営者が移住前に整理すべき税金の5項目もご覧ください。
法人設立や銀行口座開設については、JCMEの法人設立・銀行口座開設サポートをご確認ください。事業内容や設立後の運営準備について相談したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
一次情報・参考出典
- UAE財務省:SBRの2029年末までの延長発表(2026年8月7日)
- Ministerial Decision No.131 of 2026(英語PDF)
- UAE財務省:Ministerial Decision No.73 of 2023の制度説明
- FTA:Small Business Reliefの条件
- FTA:Small Business Relief Guide(CTGSBR1、2023年版)
※本記事は2026年10月20日時点で確認した一般的な情報です。個別の適用可否や税務申告の判断は、最新の法令と事実関係に基づきUAEの税務専門家へご確認ください。

