UAEでは個人に対する所得税が課されていないため、ドバイ移住は経営者や投資家から注目されています。ただし、ドバイへ住居を移したり、UAE法人を設立したりするだけで、日本の税務上の取り扱いが自動的に変わるわけではありません。
最初に整理すべきなのは、個人の居住地、法人の所在地と事業実態、日本に残る資産・法人、家族の生活拠点、そして移住時に必要な申告です。本記事では、日本人経営者が移住前に確認したい5項目を、2026年7月23日時点の公式情報を基に解説します。
この記事が向いている方
- ドバイ移住とUAE法人設立を同時に検討している経営者
- 日本法人を残したまま二拠点生活を始めたい方
- 株式や投資信託などの金融資産を多く保有している方
- 家族、住居、学校を含めて生活拠点を移したい方
一方、「住民票を抜けば日本の税金がすべてなくなる」「フリーゾーン法人なら必ず法人税0%になる」といった一律の結論を求める方には、この考え方は向きません。税務上の判断は、書類上の住所だけでなく実際の生活や事業の状況に基づいて行われます。
1. 日本の「居住者・非居住者」は生活の実態で判断される
日本の所得税法では、国内に住所がある、または現在まで引き続き1年以上居所がある個人を「居住者」とし、それ以外の個人を「非居住者」としています。国税庁は、住所を「生活の本拠」とし、客観的事実によって判定すると説明しています。
そのため、住民票の手続きだけで結論が決まるわけではありません。次のような事実をまとめて確認する必要があります。
- 本人が日本とUAEのどちらで日常生活を送っているか
- 配偶者や子どもがどこで暮らしているか
- 日本の住居を継続して利用できる状態にしているか
- 勤務、経営判断、取引先対応をどこで行っているか
- 滞在期間が一時的なものか、継続的な移住か
日本法人の役員を続ける場合や、日本に家族・住居を残す場合は、事実関係を移住前に整理することが重要です。詳しくは国税庁の「居住者と非居住者の区分」をご確認ください。
2. 個人の移住と法人設立は別の問題として考える
UAE政府の公式案内では、UAEは個人に対して所得税を課していません。しかし、これは「UAEで発生するすべての収入に税金がない」という意味ではありません。
UAE連邦税務当局(FTA)によると、個人がUAEで事業または事業活動を行い、暦年の総売上高が100万AEDを超える場合は、UAE法人税の対象となる可能性があります。一方、所定の定義に該当する賃金、個人的な投資所得、不動産投資所得は、法人税の対象となる事業または事業活動には含まれないと説明されています。
また、個人がUAEの税務上の居住者に該当するか、日本の非居住者に該当するか、UAE法人がどの税率の対象になるかは、それぞれ別の判定です。個人と法人の資金、契約、請求、口座を分けて設計しましょう。
参考:UAE政府「Other taxes」、FTA「Basis of Taxation – Natural Person」
3. 日本法人を残す場合は、二社の役割と事業実態を明確にする
日本法人を残しながらUAE法人を設立する場合は、単に二つの会社を保有するのではなく、両社の役割を説明できる状態にする必要があります。
- どちらの法人が顧客と契約するか
- 商品・サービスを実際に提供するのはどちらか
- 請求書の発行と入金をどの口座で行うか
- 役員や従業員がどこで働くか
- 重要な経営判断をどこで行うか
- 日本法人とUAE法人の間で取引がある場合、条件をどう定めるか
UAEの一般的な法人税率は、課税所得37万5,000AED以下の部分が0%、これを超える部分が9%です。フリーゾーン法人も、自動的にすべての所得が0%になるわけではありません。適格フリーゾーン法人の条件を満たす場合に、適格所得へ0%が適用され、適格所得ではない課税所得には9%が適用されます。
法人形態は設立費用だけで選ばず、営業地域、顧客、事務所、ビザ、銀行口座、会計、申告、更新費用まで比較してください。参考:UAE財務省「Corporate Tax in the UAE」、FTAフリーゾーン法人税ガイドの案内
4. 金融資産が1億円以上ある方は国外転出時課税を確認する
国税庁の国外転出時課税制度では、国外転出時に1億円以上の対象資産を保有している一定の居住者について、対象資産を譲渡したものとみなし、含み益へ所得税が課される場合があります。
対象者は、対象資産の価額等が1億円以上であることに加え、原則として国外転出日前10年以内に日本国内へ住所または居所を有していた期間の合計が5年を超える方です。対象資産には、株式、投資信託、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引やデリバティブ取引などが含まれます。
すべての資産が対象になるわけではありませんが、上場株式、自社株、投資ファンドなどを保有する経営者は、移住日を決める前に確認が必要です。納税管理人の届出の有無によって申告期限も変わるため、早めに日本の税理士へ相談してください。
参考:国税庁「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」
5. 家族・住居・銀行口座まで含めて生活拠点を作る
税務上の居住地を考えるときは、滞在日数だけでなく、住居、家族、仕事、資金管理などの実態が重要です。UAEの税務居住者証明書についても、FTAは状況に応じて、入出国記録、Emirates IDや居住ビザ、雇用・事業の証明、恒久的住居、個人的・経済的利害関係の中心に関する資料を求めています。
例えば、UAEに183日以上滞在する場合のほか、90日以上182日以下の滞在でも、UAEでの雇用・事業または恒久的住居の証明が必要となる場合があります。ただし、UAEの税務居住者証明書を取得したことだけで、日本の居住者判定が自動的に決まるわけではありません。日本法と租税条約を含めて個別に確認します。
移住後に事業を継続するには、法人銀行口座、個人口座、資金源の説明、契約書、会計記録も重要です。ビザ取得と口座開設は別の審査であり、取得が保証されるものではありません。
参考:FTA「Issuance of Tax Certificates for Tax Residency」
JCMEへ相談する前に整理したいチェックリスト
- 移住の目的は、事業、資産保全、家族、生活環境のどれか
- 日本の住居、家族、役員報酬、事業、資産をどうするか
- 日本法人を残すか、役割を変更するか
- UAEで行う事業内容、顧客、取引地域はどこか
- 重要な経営判断を実際にどこで行うか
- 対象となる金融資産の時価と含み益はいくらか
- 家族のビザ、住居、学校、医療保険をどう準備するか
- 法人・個人の銀行口座と資金移動をどう分けるか
- 日本とUAEの税務・法務を誰に確認するか
まとめ
ドバイ移住によって税負担を含む事業・資産設計を見直せる可能性はあります。しかし、法人を作ること、住民票を抜くこと、UAEのビザを取得することは、それぞれ別の手続きです。
日本の居住者・非居住者判定、UAE法人税、日本法人との取引、国外転出時課税、家族の生活拠点を一つずつ整理し、日本とUAE双方の専門家へ確認することが重要です。
JCMEでは、法人設立だけでなく、ビザ、住居、銀行口座、事業拠点など、ドバイで活動を始めるために必要な項目を整理します。移住目的と現在の状況から検討したい方は、お問い合わせフォームよりご相談ください。
※本記事は2026年7月23日時点の一般的な情報を提供するもので、個別の税務・法務・投資助言ではありません。制度や取り扱いは変更される可能性があります。実際の判断は、日本およびUAEの税理士、会計士、弁護士などの専門家へご確認ください。

